01はじめに
「好きだから、なんとかなる」
そう思える関係は素敵です。ただ、結婚後のお金は、気持ちだけでは片づかない現実でもあります。家賃、食費、保険、奨学金、親への援助。どれも「愛情があるか」ではなく、「二人で生活を設計できるか」の問題です。
この記事では、結婚前に話し合っておきたいお金の価値観を、生活費分担、借金・奨学金、貯蓄、投資、親族支援、会話例まで整理します。
お金の話は、相手を値踏みするためではありません。二人が安心して暮らすために、現実を同じテーブルに置く作業です。
02お金の問題は、なぜ結婚後に大きくなりやすいのか
裁判所の令和6年司法統計年報では、家庭裁判所で扱われた婚姻関係事件の申立て動機として、「生活費を渡さない」「浪費する」など、お金に関わる項目も挙がっています。
申立て動機の件数が大きい順に可視化しています。バーは夫・妻の申立て件数の合計を基準にしています。
この統計は、協議離婚を含むすべての夫婦トラブルを表すものではなく、申立て動機も重複集計です。数字を見て不安になる必要はありません。ただ、「お金の話を避け続けること」は、結婚後の不満を見えにくくします。生活費、自由費、借金や奨学金の扱いが曖昧なままだと、あとから「聞いていない」「そんなつもりじゃなかった」が起きやすくなります。
お金の価値観は、ざっくり言うと次の3つに分けられます。
- 使う価値観:外食、旅行、美容、趣味、車、家電などにどのくらい使いたいか
- 守る価値観:貯蓄、保険、投資、緊急資金をどのくらい重視するか
- 開示する価値観:収入、貯蓄、借金、カード利用をどこまで共有できるか
この3つを分けて話すだけで、「浪費家か節約家か」という雑なラベル貼りを避けやすくなります。
03話し合いの前に決めたい基本姿勢
1. 「正しい金銭感覚」を決めようとしない
お金の使い方に唯一の正解はありません。毎月の旅行を大事にしたい人もいれば、将来の安心のために貯蓄を厚くしたい人もいます。大切なのは、どちらが正しいかではなく、二人の生活で無理なく続けられる形にできるかです。
2. 「節約したい」ではなく「月いくら」で話す
「節約したい」「貯金したい」だけでは、二人のイメージがずれます。月3万円貯めたいのか、月15万円貯めたいのかで、生活の設計はまったく変わります。平均額に合わせるより、自分たちの手取り、家賃、通勤、働き方、将来予定に合わせて数字を置きましょう。
3. 最初から完璧なルールを作らない
結婚前に一度で正解を出す必要はありません。むしろ「3か月だけ試す」「半年後に見直す」と決めておく方が、現実に合わせやすくなります。
04まず共有したいお金の現状メモ
いきなり家計ルールを決める前に、まずは現状を共有しましょう。ここを飛ばすと、生活費分担の話が感覚論になります。
- 手取り収入、ボーナス、毎月の固定費
- 現在の貯蓄額と、緊急時に使える現金
- 奨学金、ローン、リボ払い、カード分割、親族からの借入
- NISA、iDeCo、個別株、暗号資産などの運用状況
- 親への仕送り、実家支援、将来の介護費用の見込み
借金や奨学金があること自体が、ただちに悪いわけではありません。問題になりやすいのは、金額、返済期間、毎月の返済額、延滞の有無を隠したまま結婚生活に入ることです。
奨学金の返還が苦しい場合、日本学生支援機構には減額返還制度や返還期限猶予制度があります。返済に不安があるなら、相手に隠して抱え込むより、制度を確認したうえで「毎月いくらなら返せるか」を一緒に整理する方が現実的です。
05数字で見る、結婚前のお金の現実ライン
平均額は、二人の正解ではありません。地域、住まい、車の有無、結婚式をするかで大きく変わります。ここでは、話し合いで見落としやすい費目を確認するための目安として使います。
全世代の平均では幅が広すぎるため、ここでは家計調査の「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を、世帯主の年齢階級別に見ます。
2025年の消費支出は、29歳以下で年3,203,522円、30〜39歳で年3,674,640円です。月額換算では、29歳以下が約266,960円、30〜39歳が約306,220円になります。主な内訳を月額に直すと、次のようになります。
- 29歳以下:食料 約63,800円、住居 約47,900円、光熱・水道 約17,600円、交通・通信 約37,600円
- 30〜39歳:食料 約86,900円、住居 約22,700円、光熱・水道 約21,100円、交通・通信 約53,300円
注意したいのは、このデータも「夫婦のみ」の数字ではないことです。子どもがいる世帯も含まれるため、30〜39歳の食費などは結婚直後の二人暮らしより高く見える場合があります。また、住居費は地域差と持ち家・借家の差が大きく出ます。
そのため、二人で見るべきなのは平均額そのものより、次の順番です。
- 固定費、変動費、貯蓄・投資・自由費の順に置く
- 平均より高いか低いかではなく、毎月赤字にならないかを見る
- 親族支援や車など、自分たち特有の支出を足して考える
生命保険文化センターの整理では、結納・婚約から挙式・新婚旅行までの総額は平均454.3万円です。一方、新生活だけに絞ると、マイナビウエディングの2026年調査では平均90.9万円でした。大切なのは、平均額を目標にすることではなく、式・新生活・生活防衛資金を分けて考えることです。
- 式や披露宴をするなら、総額・ご祝儀・親族援助・自己負担を分けて見る
- 新生活だけなら、賃貸契約、引っ越し、家具、家電、日用品を分けて見る
- すべて新品でそろえる前提にせず、持ち寄れる家具家電を確認する
- まとまった支払いの前に、生活防衛資金をどこまで残すか決める
借入については、貸金業法の総量規制により、貸金業者からの借入れは原則として年収の3分の1までとされています。ただし、これは「ここまでなら安心」という意味ではありません。住宅ローンや自動車ローンなど対象外のものもあり、毎月の返済額が生活費を圧迫しているなら、年収の3分の1未満でも注意が必要です。
住宅ローンでは、フラット35の利用条件として、すべての借入れを含む総返済負担率が年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下という基準があります。これも審査上の基準であり、家計に余裕が残るかは別問題です。
LoveLaboでは、結婚前の話し合いでは次の3つを危険ラインとして確認することをおすすめします。
- 家賃やローン返済を払うと、毎月の貯蓄がほとんど残らない
- 借金やリボ払いの毎月返済額を、相手に説明できない
- 引っ越しや結婚式の支払い後、生活費1〜3か月分の現金も残らない
ここに当てはまる場合、結婚をやめるべきという意味ではありません。入籍時期、引っ越し時期、式の規模、返済計画を一度見直した方が、結婚後の安心を守りやすくなります。
06結婚前に確認したいチェックリスト
生活費は「折半」だけで考えない
生活費分担には、いくつかの型があります。どれが正解というより、収入差、働き方、家事負担、将来の貯蓄方針に合うものを選ぶのが大切です。
- 完全折半型:家賃、食費、光熱費などを半分ずつ出す
- 収入比率型:手取りの比率に合わせて生活費を出す
- 共通口座型:毎月決まった額を共通口座に入れ、そこから支払う
- 項目別担当型:家賃は一方、食費と日用品はもう一方、など項目で分ける
- お小遣い型:収入を一度まとめ、自由に使える金額をそれぞれ決める
収入差が大きいのに完全折半にすると、一方だけが苦しくなることがあります。逆に、収入が高い側にすべて任せると、もう一方が家計の実感を持ちにくくなることもあります。
まずは、家賃、食費、光熱費、通信費、日用品、保険料、交通費を並べて、「固定費」「変動費」「各自の自由費」に分けてみましょう。
借金の有無は、結婚前に必ず共有する
相手の過去を責めるためではなく、結婚後のキャッシュフローを守るために確認します。住宅ローンや車のローンだけでなく、カードローン、リボ払い、分割払い、奨学金、親族からの借入も含めて見ます。
- 借入先と残高
- 毎月の返済額
- 完済予定時期
- 延滞や督促の有無
ここで大切なのは、「借金がある人はダメ」と単純化しないことです。返済計画が明確で、生活費や貯蓄とのバランスを説明できるなら、話し合いの余地はあります。一方で、金額を言わない、明細を見せない、延滞を軽く扱う場合は、結婚前に立ち止まった方が安全です。
貯蓄は「余ったら」ではなく先に決める
貯蓄は、性格より仕組みの影響を受けます。結婚前に決めたいのは、「毎月いくら貯めるか」だけではなく、「何のために貯めるか」です。
- 生活防衛資金を何か月分持つか
- 結婚式、引っ越し、家具家電の予算
- 住宅購入を考えるか、賃貸を続けるか
- 投資や保険に毎月いくらまで使うか
投資については、増やすことだけでなく、減る可能性をどう受け止めるかも確認しましょう。一方がリスクを嫌うのに、もう一方が生活資金まで投資に回したい場合、安心感に大きな差が出ます。
大きな支出は、価値観の差が出やすい
毎日のカフェ代より、住まい、車、結婚式、家具家電の方が家計への影響は大きくなります。特に住まいは、通勤時間、家事負担、子育て、親族との距離にも関わります。
- 家賃は手取りのどのくらいまで許容するか
- 持ち家派か、賃貸派か
- 車は必要か、必要なら維持費まで払えるか
- 結婚式やハネムーンにいくらまで使うか
「一生に一度だから」と「これからの生活が大事だから」は、どちらも自然な感覚です。だからこそ、予算上限を先に決めておくと、話が感情的になりにくくなります。
親への支援は、あとから揉めやすい
親への仕送り、実家のローン、きょうだいへの援助、将来の介護費用は、本人にとっては「家族として当然」でも、パートナーにとっては突然の負担に見えることがあります。
- 現在、親や家族へ仕送りしているか
- 将来、親の介護費用を負担する可能性があるか
- 親から住宅資金や結婚資金の援助を受ける予定があるか
- 親からの援助を受けた場合、夫婦の意思決定に影響が出ないか
親を大切にすることと、夫婦の生活を守ることは両立できます。そのためには、支援の上限と相談のルールを先に決めておくことが必要です。
自由に使えるお金は、あえて残す
家計管理をきっちりしようとしすぎると、どちらかが息苦しくなります。趣味、美容、服、ゲーム、ライブ、旅行、外食、お酒などは、完全に禁止するより「ここまでは自由」と決めた方が続きます。
- 毎月の自由費をいくらにするか
- 高額な買い物はいくら以上から相談するか
- 外食や旅行は月いくらまでにするか
- ギャンブル、投げ銭、課金、暗号資産などの上限を決めるか
特にギャンブルやリボ払い、生活費を圧迫する課金は、価値観の違いでは済まないことがあります。家計を壊す可能性がある支出は、早めに線引きしましょう。
07実際に使える会話例
お金の話は、切り出し方で空気が変わります。いきなり「貯金いくらあるの?」と聞くより、目的を先に伝える方が話しやすくなります。
生活費を話したいとき
「結婚後にどちらかだけが苦しくなるのは避けたいから、家賃や食費の出し方を一度整理したい。折半がいいか、収入比率がいいか、一緒に見てもいい?」
借金や奨学金を確認したいとき
「責めたいわけじゃなくて、毎月の生活費を現実的に組みたい。奨学金やローンがあれば、残額と毎月の返済額だけ共有しておきたい」
自由費を決めたいとき
「お互いに好きなことへ使うお金は残したい。ただ、家計が不安にならないように、相談が必要な金額だけ決めておかない?」
親族支援を話したいとき
「家族を大切にしたい気持ちは尊重したい。だからこそ、仕送りや介護費用が必要になったとき、夫婦のお金からどこまで出すかを先に話しておきたい」
08二人で決めるための5ステップ
全部を一度に決めようとすると、重くなりすぎます。まずは次の順番で進めるのがおすすめです。
1. 各自で現状を書き出す
収入、固定費、貯蓄、借金、自由費を書き出します。最初から見せ合うのが気まずければ、まずは合計だけでも構いません。
2. 共通生活費を仮置きする
家賃、食費、光熱費、通信費、日用品など、二人で払うものを並べます。「理想の暮らし」より先に「最低限必要な暮らし」から組むのがコツです。
3. 分担方式を決める
完全折半、収入比率、共通口座、お小遣い制などから、まず3か月試す方式を決めます。
4. NGラインを決める
高額な買い物、借入、リボ払い、投資額、親族支援など、「事前相談が必要なライン」を決めます。
5. 月1回、15分だけ見直す
家計会議というほど大げさにしなくても大丈夫です。月に1回、15分だけ「今月困ったこと」「来月変えること」を確認するだけで、ズレは早く見つかります。
09LoveLaboらしく考えるなら「条件の現実感」も見ておく
お金の価値観を話すとき、相手の年収や働き方に期待が集中することがあります。ただ、希望条件が現実の出会いの中でどのくらいの割合なのかを知らないまま話すと、相手に過度な期待をぶつけてしまうことがあります。
LoveLaboでは、結婚前の話し合いを「相手を変えるため」ではなく、「自分の希望条件を客観視して、現実的な対話にするため」の準備だと考えます。
10一度立ち止まった方がよいサイン
お金の価値観は違っていても、話し合えるなら調整できます。一方で、次のような状態がある場合は、結婚を急がず立ち止まった方が安全です。
- 借金、リボ払い、延滞を隠されていた
- 生活費を一方だけに負担させるのに、説明や感謝がない
- お金の話をすると怒る、黙る、茶化す
- ギャンブルや投資で生活費に手を出している
- 親族への援助を、相談なく夫婦の家計から出そうとする
特に、生活費を渡さない、相手の収入を一方的に管理する、使えるお金を極端に制限するなどは、単なる金銭感覚の違いではなく支配の問題になることがあります。不安がある場合は、信頼できる第三者や専門窓口に相談してください。
11まとめ
結婚前のお金の話は、ロマンチックではないかもしれません。でも、二人の安心を守るためにはとても大切です。
大切なのは、相手を責めることではありません。生活費、借金、貯蓄、投資、親族支援、自由費を同じテーブルに並べて、「二人ならどうするか」を決めることです。
最初から完璧な家計ルールを作る必要はありません。まずは現状を書き出し、3か月だけ試すルールを決め、月1回見直す。小さな確認を続けることが、結婚後の大きな安心につながります。
12参考
本文内の統計・参考情報は、以下の資料をもとに確認しています。
- 総務省統計局 家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 品目分類(世帯主の年齢階級:金額)
世帯主29歳以下・30〜39歳の勤労者世帯における消費支出と費目別支出の確認に使用しています。
- 総務省統計局 家計調査報告 家計収支編 2025年平均結果の概要
全世帯平均、勤労者世帯の可処分所得などの補足確認に使用しています。
- 総務省統計局 家計簿からみたファミリーライフ 第3章 年齢階級別に見た暮らしの特徴
若い世帯ほど借家割合が高く、住居費の見方に注意が必要なことの補足確認に使用しています。
- 裁判所 令和6年 司法統計年報 家事編 第19表 婚姻関係事件数―申立ての動機別申立人別
婚姻関係事件の申立て動機データの確認に使用しています。
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