メッセージ 2026.05.15 更新

「感謝されている実感」は、関係を続ける力になるのか

小さな「ありがとう」が返ってくる関係は、なぜ続きやすいのでしょうか。Gordon et al. (2012) の米国カップル研究をもとに、「感謝する側」と「感謝されている実感」を分けて、恋活・婚活で見直しやすい形に整理します。

恋活・婚活、あるいは交際初期に、こんなことを感じたことはないでしょうか。

  • してあげたことを当たり前に流されると、こちらの気持ちもしぼんでくる
  • 逆に、ちょっとしたことに「ありがとう」を返してくれる相手とは、自然と関係が穏やかに続く
  • 自分が相手にどれくらい感謝できているかで、その人への気持ちが変わる気がする

「感謝の気持ちは大事」と言われると、当たり前すぎて少し白けてしまうかもしれません。ただ、この当たり前を少し分解すると、見えてくるものがあります。

この記事では、Gordon, Impett, Kogan, Oveis, & Keltner (2012)「To Have and to Hold: Gratitude Promotes Relationship Maintenance in Intimate Bonds」(Journal of Personality and Social Psychology)を取り上げます。ポイントは、感謝を「自分が相手に感謝していること」だけでなく、「自分が相手から感謝されていると感じられること」にも分けて見ている点です。

研究の対象は主に米国の大学生や若年カップルで、日本の恋活・婚活そのものを調べたものではありません。それでも、「感謝が大事」というふわっとした話を、日常のどこで見ればいいのかを考える手がかりになります。細かい研究条件や数値は、後半の Research note にまとめます。

01結論を先に:「感謝されている体感」も関係を支えている

研究の中心的な結果を、恋活・婚活の言葉で言い換えると、こうなります。

  • 「相手にちゃんと感謝の気持ちを伝えること」だけでなく、「自分が相手にちゃんと感謝されている」と感じられるかどうかも、関係の続きやすさにじわじわ効いてくる
  • そして、その感謝のキャッチボールは、片方向ではなく相互に回り続けるサイクルになっている

ただし、この研究1本だけで「感謝が原因で関係が続く」と決められるわけではありません。詳しくは後半の「研究の概要」と「ここに注意したい」をご覧ください。

02恋活・婚活ではどう考えるか

「感謝されたい」というと、自己中心的に聞こえてしまうかもしれません。でも、研究を読むと、「感謝されている感覚」は実用的な意味を持っているように見えます。

場面「感謝されている感覚」が出やすい瞬間出にくい瞬間
日常のやり取り小さなことに「ありがとう」「助かった」と言葉が返ってくる当たり前として処理される、無言で済まされる
役割の偏りこちらの努力や工夫を、相手が「気付いて」「言葉にしてくれる」やって当然、できて当然と扱われる
失敗・余裕がない時余裕がない自分に、相手が気遣いを返してくれる機嫌が悪いと、感謝より要求が増える
喜びの共有プレゼントや手間に「驚き」や「喜び」を返してくれる反応が薄い、すぐ次の話題に行く

ここを「合格/不合格」で相手を判定するためのチェックリストにはしないでください。「自分が今、相手といてどう感じているか」を整理する地図として使うほうが、研究の趣旨に近い読み方になります。

逆に、自分の側で考えるなら、「相手の何に、自分が今、気付いていなかったか」と振り返ってみるのが現実的です。研究では、自分の側の感謝(appreciative)の高さが、応答的な行動を介して、相手の「自分は感謝されている」という体感にもつながっていました。気付き、それを言葉にして渡す、という行動が、相手の安心感に届きやすいということです。

03相手が感謝してくれないと感じたら

「感謝されていない」と感じるとき、いきなり相手の性格を判定したくなるかもしれません。でも、最初に見たいのは、相手を責める材料ではなく、自分が何に傷ついているのかです。

たとえば、同じ「ありがとうがない」でも、中身は少し違います。

  • 手間をかけたことに気付いてもらえず、むなしい
  • こちらばかり調整していて、役割が偏っている
  • してもらうことは当然なのに、こちらへの要求だけが増えている
  • 感謝の言葉以前に、否定や命令のような言い方が増えている

まずは「ありがとうを言ってよ」と迫るより、何を見てほしかったのかを具体化したほうが伝わりやすくなります。

  • 「お店を探したこと自体に、少し気付いてもらえるとうれしい」
  • 「迎えに行くのはいいけど、毎回当然みたいになると少し寂しい」
  • 「手伝ったあとに一言あると、自分もまた気持ちよく動ける」

一度伝えてみて、相手がすぐ完璧に変わるかどうかではなく、受け止めようとする姿勢があるかを見てみてください。照れや習慣の違いで言葉が少ない人でも、「そうだったんだ」と聞こうとするなら、感謝のサイクルはまだ作れる可能性があります。

一方で、何度伝えても「それくらい当たり前」「面倒くさい」「感謝されたいなんて重い」と返される場合や、こちらが感謝を伝えても要求だけが増える場合は、感謝の問題だけではないかもしれません。相手を変える努力を続ける前に、その関係にいる自分がすり減り続けていないかを見直すほうが大事です。

特に、否定・支配・監視・脅しが混じる場合は、「感謝を増やす工夫」ではなく、安全確認の話になります。後の注意点でも触れますが、話し合いより距離の取り方や相談先を優先してください。

04具体的な「感謝が回っている」サイン

「ありがとう」と言っているかどうかだけで判断すると、表面的になりがちです。研究で使われた感謝の尺度や日常データの中身をふまえて、もう少し具体的なサインに言い換えてみます。

研究そのものの主張ではなく、恋活・婚活の場面で参考にしやすい翻訳です。相手を責めるためのチェックにせず、自分が今どう感じているかを整理する材料として読んでみてください。

「うまく回っている」と感じやすい例

  • 小さな手間(食事の準備、調べ物、送り迎えなど)に対して、相手が言葉を返してくれる
  • 相手が、自分の良いところを具体的に挙げてくれることがある(容姿だけでなく、性格・行動も)
  • 自分の側も、相手のしてくれたことに「当たり前」と感じずに、自然と感謝が湧いてくる
  • 失敗したときやしんどい時期でも、相手から「責められる前に気遣われる」場面がある

「ちょっと立ち止まりたい」と感じる例

  • してあげたこと・気を遣ったことが、ほとんど無言で処理される
  • 自分の良いところを「言葉にして」もらった記憶があまりない
  • 相手の良いところに、自分の側からも「ありがとう」「すごい」と返せていない
  • 余裕がない時期に、相手の不満や要求のほうが先に出てくることが多い

「明らかに別の問題が混じっている」と感じる例

  • 感謝を返してもらえないだけでなく、「やって当然」「もっとできるはず」と否定が増える
  • 自分が感謝を伝えても、機嫌が悪いとさらに要求がエスカレートする
  • 自分の側で、相手のどこを評価していたか、思い出せなくなっている

3つ目のような状態は、感謝のキャッチボールというより、力関係そのものが崩れているサインのことがあります。研究の枠を超えるので、後ほどの注意点で改めて触れます。

05恋活・婚活でできる小さな実験

研究結果をそのまま「やるべきこと」にすると窮屈になります。代わりに、小さく試せる形に置き換えてみます。

  • 「ありがとう」の中身を一段具体的にする: 「ありがとう」だけで終わらせず、「〜してくれたの助かった」「忙しいのに調べてくれたよね」と、具体に踏み込んで返す。
  • 見えにくい労力を言葉にする: 食事の店選び、調整、気遣いなど、結果より過程に近い部分にも気付いて言葉にする。
  • 自分は何に感謝してきたかをメモする: 直近1〜2週間で、相手のどんなところに「ありがたい」「いいな」と思ったかを書き出してみる。それが自分の中で意識化されると、口に出しやすくなります。
  • 「感謝されている感覚」がある相手かを見る: 何度伝えても響かない、努力が見えていないように感じる、という関係は、相手を責めるためのチェックにせず、自分のいる場所で感謝のキャッチボールが回っているかを整理する材料として使ってみる。

「感謝が大事」というありきたりな話ではなく、気付き → 言葉にする → 相手が受け取るの小さなサイクルを意識する、というイメージです。

06研究の概要

ここでは要点だけ押さえます。サンプル数、係数、尺度名などの細かい情報は、直後の Research note に畳んでいます。

何を調べた研究か

この研究は、恋愛関係における感謝を2つに分けて見ています。

  • appreciated: 自分が相手に感謝されていると感じること
  • appreciative: 自分が相手に感謝を抱いていること

そのうえで、アンケート、毎日の日記、9か月後のフォローアップ、カップル会話の観察を組み合わせて、この2つが関係維持とどうつながるかを調べています。

何が見えたか

結果を本文向けに絞ると、流れはかなりシンプルです。

  • 感謝されている実感が高い人ほど、自分の側でも相手への感謝を抱きやすかった
  • 相手への感謝が強い人ほど、相手の話を責めずに聞く、相手の希望を優先するなど、応答的な行動が増えていた
  • その応答的な行動は、相手側の「自分も感謝されている」という実感にもつながっていた
  • 9か月後の追跡でも、相手への感謝が高い人ほど、関係が続いている側に寄っていた

つまり、「感謝を伝える人が偉い」という単純な話ではありません。自分が感謝されていると感じること、自分も相手に感謝を抱くこと、その感謝が行動に出ることが、関係の中で回りやすい、という見方です。

注意したい数字の読み方

9か月後にまだ一緒にいたオッズ比は 3.58 と報告されています。ただし、これは「確率がそのまま3.58倍」という意味ではありません。フォローアップ回答者は51名で、別れは14名と大きなサンプルでもないため、個別の関係にそのまま確率計算として当てはめる数字ではありません。

また、9か月という期間は、結婚20年・30年の関係維持とは違います。文化差や年齢層の偏りもあります。この記事では、「感謝すれば必ず続く」ではなく、感謝のサイクルが回っているかを見るための手がかりとして読むのが現実的です。

Research note 裏付けにした論文

細部を確認したい方向けに、論文の枠と主な数値を残しておきます。

著者
Amie M. Gordon, Emily A. Impett, Aleksandr Kogan, Christopher Oveis, & Dacher Keltner
タイトル
To Have and to Hold: Gratitude Promotes Relationship Maintenance in Intimate Bonds
掲載誌
Journal of Personality and Social Psychology, 103(2), 257–274
出版年
2012年
尺度
AIRスケール(Appreciation in Relationships Scale)。appreciated 7項目/appreciative 9項目、7点尺度。α 概ね .74〜.91(サンプル・研究によって異なる)
尺度作成サンプル
米国学部生サンプル(A:194名、D:81名)と米国成人オンラインサンプル(B:347名、C:93名)合計 715名。女性比率70〜83%
Study 1
UCバークレー学部生78名(平均約21歳)。事前アンケート+14日間日記
Study 2
UCバークレー学部生99名。7日間日記+9か月後フォローアップ(回答者51名/52%)。9か月時点で14名(27%)が別れ
Study 3
サンフランシスコ・ベイエリアの異性愛交際カップル63組(観察分析は49組)。平均年齢約24歳、交際期間平均約2年。実験室でのビデオ会話を第三者が評定
主結果(横断)
appreciated→appreciative β=.72/appreciative→responsiveness β=.59(いずれも Study 1, N=78)
主結果(日次ラグ)
appreciated→appreciative β=.21/appreciative→responsiveness β=.17(Study 1, 14日間日記)
9か月後の継続
オッズ比 3.58(95%CI [1.45, 8.85])。別れ話の話題化 β=−.45, p<.01
第三者評定(Study 3)
responsiveness β=.45, t(66)=4.90, p<.001/commitment β=.44, t(60)=4.66, p<.001
DOI
https://doi.org/10.1037/a0028723

07ここに注意したい

研究の結果をそのまま日常に当てはめる前に、ふまえておきたい点があります。

  • 海外・若年層のサンプル: 主に米国の大学生・若年カップルが中心です。日本の婚活、再婚、長期結婚、子育てフェーズなどとは状況が違います。文化的な感謝表現の出し方や受け取り方にも差があるため、「同じ強さで効く」とは言い切れません。
  • 相関中心の研究: ラグ分析や9か月追跡など丁寧な手法は使われていますが、「感謝を増やせば関係が必ず長続きする」と断言できる実験ではありません。
  • 健全な関係を前提にしている: 著者らも限界節ではっきり書いている通り、身体的・心理的暴力や強い支配を含む関係では、無理に感謝を抱こうとすることが状況を悪化させる可能性があります。「感謝が大事」というメッセージは、安全な関係の中で初めて意味を持ちます。
  • 「感謝されたい」が一方向の要求になると逆効果: 研究の構造は「お互いに感謝が回るサイクル」が前提です。自分だけが感謝されたい・自分は感謝を返したくない、という方向に使うと、本来の趣旨と離れてしまいます。
  • その日の気分や満足度の影響もある: 著者らは、関係満足度を統計的にコントロールしても結果が大きく崩れなかったと報告していますが、それでも「感謝の体感」と「単純に今日機嫌が良いか」は完全には分けきれません。

08まとめ

  • Gordon et al. (2012) は、米国の若年カップルを対象に、「感謝されている体感(appreciated)」と「相手への感謝(appreciative)」の両側面を測る尺度を作り、4つの研究で関係維持との関連を調べた
  • 感謝されている体感が高い人ほど、自分の側で相手への感謝を強めやすく、その感謝の強さが応答性・コミット・9か月後の継続と関連していた
  • 相手が感謝してくれないと感じるときは、まず「何を見てほしかったのか」を具体化して伝え、相手に受け止める姿勢があるかを見る
  • 一方で、サンプルは主に米国の若年層で、相関中心の研究。日本の恋活・婚活にそのまま当てはめるのではなく、「気付いて、言葉にして、お互いに返す」サイクルが回っているかを見直す手がかりとして読むのが現実的
  • 暴力や強い支配を含む関係では、感謝を抱く方向で関係を支えようとすることが安全とは限らない。研究の射程外

「優しい人を選ぶ」「感謝できる人になる」と言葉にすると抽象的ですが、研究を通すと、もう少し具体的な手触りが見えてきます。完璧に感謝を返し合うことではなく、お互いの小さな労りに気付き合えるサイクルが回っているかどうか――そこを一度のぞいてみる、くらいの距離感でちょうどよさそうです。

09参考文献

Sources

本文内の統計・参考情報は、以下の資料をもとに確認しています。

L

LoveLabo編集部

LoveLaboは、恋愛や結婚で迷ったときに、気持ちだけで抱え込まず、少し冷静に考えられるヒントを届けるメディアです。国勢調査・人口動態統計などの公的データや、実際の悩みをもとに、一人ひとりの選択に寄り添います。

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