「条件は合っているはずなのに、なぜか不安が残る」
恋活・婚活では、年齢、年収、価値観、性格、趣味の一致など、相手の条件を見ようとします。それは出会いの入口としては自然です。ただ、長く続く関係の質を考えるとき、条件リストだけでは見落としやすいものがあります。
この記事で取り上げるのは、Joel, Eastwick ら(2020)のPNAS論文です。43本の縦断研究、1万組以上のカップルのデータをまとめ、「アンケートで答えたどの項目が、関係満足度と強く結びついていたか」を比較しています。
01研究が示したトップ5
この論文で特に強く出ていたのは、個人の性格や属性よりも、「2人の関係について本人がどう感じているか」という項目でした。
恋活・婚活の場面では、「この人は条件に合うか」だけでなく、「この人といる自分はどう感じているか」を見る項目です。
- 1. コミットメント感
相手が自分との関係を続けようとしている、と感じられること。
- 2. 感謝
相手の存在や行動に、ありがたさを感じられること。
- 3. 性的な満足度
お互いに無理のない範囲で、性生活の質に納得できていること。
- 4. 相手の満足感の見え方
相手もこの関係に満足している、と感じられること。
- 5. 衝突の少なさ
ぶつかっても人格否定や攻撃に流れず、衝突が常態化していないこと。
ここで出てくる85%や72%は、「その項目を答えた人の割合」ではありません。たくさんのアンケート項目の中で、どの項目が関係満足度の高い人・低い人を見分ける手がかりとして安定して出てきたかを示す数字です。
この割合は、複数のデータでその項目が「関係満足度の高低を見分ける手がかり」としてどれくらい安定して出てきたかを示します。人数の割合ではなく、効果の大きさそのものでもありません。
個人の特性では、人生満足度、ネガティブ感情の少なさ、抑うつ傾向の低さ、不安型アタッチメントの低さ、回避型アタッチメントの低さが上位でした。つまり、関係の状態だけでなく、自分の生活や心理的な土台も無関係ではありません。
研究では、ある時点の関係満足度について、「満足度が高い人と低い人の差」をどれくらい説明できるかを見ています。感謝・コミットメント・性的満足・衝突など、2人の関係についての項目だけで、その差の最大45%程度を説明できました。一方、人生満足度や抑うつ傾向、アタッチメントなど、本人側の状態を表す項目だけでは最大21%程度でした。
かなり単純化して言えば、「相手がどういう人か」だけを見るより、「2人の間で何が起きているか」を見る方が、いまの満足度を考えるうえでは強い手がかりになっていた、ということです。
02自分がどう感じているかも見る
この研究では、本人が答えた内容と、相手が答えた内容の両方が分析されています。結果として、「自分はこの関係に感謝している」「相手は関係を続けようとしてくれていると感じる」など、本人側の答えの方が、自分の関係満足度と強く結びついていました。具体的には、本人側の生活・心理状態に関する項目では19%に対して相手側は5%、2人の関係に関する項目では45%に対して相手側は15%が説明されたと報告されています。
これは恋活・婚活ではかなり大事な示唆です。相手のスペック、相手から見た自分、周囲からの評価ばかり見ていると、「自分はこの関係で落ち着けているか」という最も近いセンサーが後回しになります。
ただし、今回のデータはほぼアンケート回答で、関係満足度に近い質問も含まれます。だから「自分の感じ方が原因で関係が決まる」とは読みません。条件や相性を見る前に、自分が安心できているか、感謝できているか、無理をしていないかを確認する。そのくらいの使い方がちょうどいいです。
03いまの相手との関係を見る5つの確認軸
研究で上位に出ていた5つの項目を、生活の中で使える確認軸として整理すると次のようになります。合格・不合格をつける表ではありません。違和感が続いている場所を見つけるための、ざっくりした点検表です。
「OKかどうか」よりも、注意サインが長く続いていないかを見る方が実用的です。見るポイントと注意サインを分けて確認します。
| 状況 | 見るポイント | 注意サイン |
|---|---|---|
| コミットメント感 | 大事な予定や決断の中に、自分が自然に含まれている。関係について話しても、毎回はぐらかされない。 | 存在を隠される、将来の話から明確に外される状態が続くなら見直す。 |
| 感謝 | 小さな出来事で「ありがたい」と思える瞬間がある。足りない部分だけで相手を見ていない。 | 相手の存在自体が負担にしか感じられない状態が長く続くなら、無理に続けない。 |
| 性的な満足度 | 性生活の質に納得できている。不満や戸惑いがある場合も、責め合わずに話せる。 | 自分の意思に反する要求、拒否への圧力、怖さがあるなら安全確保を優先する。 |
| 相手の満足感 | 相手の表情、言葉、態度に、関係への安心や満足のサインが見える。 | 相手が常に退屈そう、疲弊している、続ける気がないサインを繰り返すなら放置しない。 |
| 衝突の少なさ | 意見がぶつかっても、人格否定ではなくテーマについて話せる。仲直り後に振り返れる。 | 暴言、侮辱、脅し、身体的な攻撃があるなら、話し合いより距離と相談を優先する。 |
04自分のコンディションは「土台」として見る
ここでいうコンディションは、02で見た「相手との関係の中でどう感じているか」とは別です。人生満足度、ネガティブ感情、抑うつ傾向、アタッチメントのように、関係を見る前から自分側にある生活・心理状態のことです。
婚活中に消耗していると、相手の言動を過度に悪く見たり、逆に不安を埋めるために無理な関係へ近づいたりすることがあります。睡眠、仕事、健康、孤独感、焦りが極端に削れているときは、相手選びの精度も落ちやすい。これは精神論ではなく、関係を見るための土台の話です。
「いい相手を探す」と「自分の生活を整える」は、別々のテーマではありません。相手を見る目を保つためにも、自分の余力を残しておく必要があります。
05研究の概要と限界
Research Note 取り上げた論文 論文の枠を知っておくと、結果を盛りすぎずに使えます。
- 著者
- Joel, S., Eastwick, P. W., Allison, C. J., Arriaga, X. B., Baker, Z. G., Bar-Kalifa, E., et al.(総勢86名の共同研究)
- タイトル
- Machine learning uncovers the most robust self-report predictors of relationship quality across 43 longitudinal couples studies
- 掲載誌
- Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(32), 19061-19071
- 対象
- 43本の縦断研究、約2万2,163人、追跡を含めて約1万1,196組のカップル。結婚済みカップルとデートカップルが混在。
- 方法
- 複数のアンケート項目を統計的に比較し、2人の関係についての項目、本人側の生活・心理状態、相手側の回答などが、関係満足度とどれくらい結びついているかを確認。
- DOI
- https://doi.org/10.1073/pnas.1917036117
注意点は大きく4つあります。
- 対象は欧米圏のカップルが中心で、日本の恋活・婚活にそのまま当てはまるとは限りません。
- 測定はほぼアンケート回答です。観察された行動データではなく、「本人がどう感じているか」を中心に扱った結果です。
- 縦断データを使っていますが、この記事で扱っているのは主に予測モデルの話です。「感謝すれば必ず関係が良くなる」のような因果関係を直接示したものではありません。
- 現状の関係満足度は比較的よく予測できても、時間とともに上がるか下がるかはほとんど予測できませんでした。論文では、将来の変化について説明できた割合は5%以下にとどまっています。
論文側では、性別・人種・学歴などの属性は、関係満足度との結びつきが小さかったとも報告されています。だからこそ、集団平均の話を個別の相手に持ち込みすぎるより、目の前の関係で何が起きているかを見る方が実用的です。
06恋活・婚活での使い方
この研究を、婚活の現場で使うなら次の3つで十分です。
条件チェックに加えて、自分の感覚と関係の運営状態を一緒に見ます。
- 条件が合うかだけでなく、一緒にいる自分が安心できているかを見る。
- 感謝・コミットメント・性・衝突について、話し合える余地があるかを見る。
- いま満足しているかと、これから続けられる運営があるかを分けて考える。
- 怖さ、支配、攻撃、性的な圧力がある場合は、相性や努力の問題にしない。
「ぴったり合う人を探す」ことに力を入れすぎると、関係の中で育つものを見落とします。一方で、「努力すれば何でも続く」と思いすぎても危険です。
見るべきなのは、条件と努力のどちらか一方ではありません。この人といるとき、自分は感謝できているか。相手から大切にされていると感じられるか。衝突しても戻ってこられるか。そこに目を向ける方が、関係の質を考えるうえではずっと現実的です。
07まとめ
- 1万組以上のカップルを分析した研究では、関係満足度と強く結びついていたのは、相手の属性そのものより「2人の間で起きていること」だった。
- 関係の中で起きていることのトップ5は、コミットメント感、感謝、性的満足度、相手の満足感の見え方、衝突の少なさ。
- 本人が答えた内容は、相手側の回答よりも自分の満足度と強く結びついていた。ただし、アンケート中心の研究なので「自分の感じ方がすべて」とは読まない。
- 個人の人生満足度やメンタル面の土台も、関係を見る力に関わる。
- いまの関係の質はある程度見えても、将来の変化は予測しづらい。だからこそ、良い状態を続ける運営が必要になる。
恋活・婚活では、相手の条件を見ることも大切です。ただ、それだけでは足りません。最終的には、「この人といる自分は、感謝・安心・満足・安全な衝突を感じられているか」を確認する。その視点が、研究の数字を生活に落とし込むいちばん堅実な使い方です。
08参考文献
本文内の統計・参考情報は、以下の資料をもとに確認しています。
- PNAS Machine learning uncovers the most robust self-report predictors of relationship quality across 43 longitudinal couples studies
Joel, S., Eastwick, P. W., Allison, C. J., Arriaga, X. B., Baker, Z. G., Bar-Kalifa, E., et al. (2020). Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(32), 19061-19071.